篠原歯科医院

群馬県高崎市上中居町の歯科医院
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2008.06.25 某機関誌に寄稿いたしました。

1パーセントに望みを託す遺族
篠原歯科医院院長 篠原瑞男

 最近、子が親を殺害し遺体の処分に困りバラバラにして山林に遺棄するという、胸の痛む、信じられないような事件が連日のようにテレビ、新聞等で報じられている。
  どのような状況下の事件でも、警察が第一にやらねばならない大切なことがある。
  それはその遺体が本当に誰であるか個人識別しなければならないということである。
  個人識別とは身元不明死体の身体的特徴や遺留品から、その人が誰であるかということを特定することである。
  現在、個人識別の資料として、遺留品、着衣、顔貌、血液型、指数、歯科所見などが利用されている。その中でも特に指紋や遺留品などから個人を特定する場合が多い。
  しかし、高度燃損死体は指紋、遺留品、着衣等が焼失されるため個人識別は困難を伴うことが多い。このような場合は、歯科的資料を用いた個人識別が有効となる。
  歯、特にエナメル質は人体の中でもっとも硬く、物理化学的影響を受けにくいため、原型保存が高く、歯に施されてた保存処置、補綴処置などの歯科治療の痕跡も残存する可能性が高くなる。
  また、我が国における国民の歯科受診率も高いため、殆どの人が歯科医院にて何らかの治療を受けて歯科のカルテに記載されている。これらのことを総合して考えると、成人の歯を23本位とした場合、その組み合わせは膨大な数になり、各個人の歯の特色は千差万別となる。
  このことが歯科的資料を用いた個人識別が有効な方法である理由である。

 ある年の3月某日早朝、近所の人の煩い人声で目を覚ましました。昨夜、非常に冷えて水道管が破裂し、道路に水が川のように溢れているのを窓越しに目にした。この時、今日は診療出来ないという思いが頭の中をよぎった。情けないことに水が無いと歯科診療は出来ないのである。復旧に半日かかるとのことで、取りあえず。午前中の診療は休診にすることにした。
  さて、午前中は何をしようかと思案していたところに、高崎警察署から出動要請の電話が入った。二つ返事で了承したのは言うまでもない。
  高速道路で大型トラックと軽自動車が接触事故を起こし、車両が大破し燃えてしまった。不幸にして軽自動車の運転手が焼死したため身元確認をして欲しいとのことであった。

今日は診療もないし、いつも身元確認に高崎警察署に向かう気分とはまた違った気分で高崎インターに向かっていたのは事実である。それが帰りには初心を忘れていた反省と遺族に対する申し訳ない複雑な気持ちになるとは、その時、夢にも思っていなかった。

 高崎インター事務局に到着すると事務所内はあわただしかった。この日、警察の異動日で異動準備とこの事件である。
早々、御遺体の身元確認に入った。御遺体を包んでいた毛布を丁寧に広げご遺体と対面し合掌した。焼死体の特徴の一つであるファイティングポーズはどこか、「私をきちんと見つけて欲しい」と言っているようでもあった。
 手順通りに口腔内の歯科治療を精査し、終了後、事務所に入ると通路の右側に3人の遺族らしき人が心配そうに待っているのが目に入った。事務所に用意された歯科用カルテ、歯科用レントゲン(パノラマX線写真)と御遺体の歯科記録との照合に入った。照合作業に入って15分程経ったころ、担当刑事さんが部屋に入ってきて私に声をかけてきた。「先生!どうですか?一致しましたか?」と…。私は頭の中で御遺体と歯科カルテは99パーセント同一人物であると判断していたが、全部の照合が終わっていなかったので、「99パーセント間違いないと思いますが。もう少し待って下さい」と答えた。「分かりました」とその刑事さんは部屋を出て行った。狭い事務所なので通路の声がよく聞こえる。担当の刑事さんが遺族の方に呼び止められた。「刑事さん!うちの人なのでしょうか…?」「今、先生が調べています。99パーセント間違いないようですが、もうしばらくお待ち下さい」私が言ったとおりに説明している。その時、遺族の方のやり取りが耳に鮮明に入って来た。この時、私は非常に驚いた。私は99パーセント間違いないとということは100パーセントその人であるという意味なのであるが、遺族にとっては身内の人であって欲しくないという望みを1パーセントに託したのである。余計なことを言ってしまった。もう取り返しがつかない。残り1パーセントに望みを抱かせたのは私の不用意な発言であった。

 思い返せば私が警察医になったのは日航機事故以後のことである。警察医になった当時、神奈川歯科大学法医学教授である山本勝一先生に師事し、法医学を基本から学ぶと同時に3つの心得を学んだ。

心得
1)死者に対して敬意を払う事
2)目を開き、口を閉ざし、耳を塞ぐ事
3)Do it now.Do it yourself.Do it your best. (今すぐ、あなた自身が最善を尽くしなさい)

 私の不用意な発言が遺族に対し絶対に望みのない希望を持たせ、後に悲しみのどん底にさらに遺族を突き落としたような気持ちになった。帰りの車の中で、山本勝一先生の教えを再確認すると同時に同じ失敗を二度としないと心に誓った。
 身元確認が歯科カルテとパノラマX線写真からなされたことは言うまでもない。そして歯科治療とその記録がいかに大切か、新たに認識した事例であった。

合掌


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