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2007.08.10 上毛新聞:Takataiに記事掲載されました

歯のX線写真で身元確認
御巣鷹の教訓生かす

上毛新聞:Takatai(2007.8.10)
 日航ジャンボ機が上野村の御巣鷹山に墜落して間もなく満22年になる。500人を超える人が犠牲になり、多くの医師や歯科医が犠牲者の身元確認に携わった。その教訓を生かそうと、高崎市高関町の歯科医師、小菅栄子さん(35)は、「歯のエックス線写真による身元確認システム」を開発した。大規模災害時における身元確認がスピーディに行えるとあって、学会などで発表され、関係者の注目を集めている。 小菅さんが同システムの開発に興味を持つようになったのは10年ほど前からで、検視警察医を勤める父親の篠原瑞男(62)さんの影響が大きい。

  同市上中居町で歯科医院を開業する篠原さんは、墜落事故の際に身元確認作業に携わった。以来、毎年8月12日に御巣鷹山へ慰霊登山をしている。登山に同行するようなった小菅さんは、偶然出会った遺族から歯による身元確認の疑問を打ち明けられ、大規模災害時に役立つ確認システムを作りたいと考え始めた。
小菅さんは7年前、女性歯科医として県内で初めて検視警察医になった。検視活動を通して生まれた強い使命感が、システム作りへの思いをさらに後押ししたようだ。

負担軽く、時間短縮

 指紋や歯による身元確認は、大規模災害時に極めて有用な方法で、既に指紋を用いた自動的な確認システムは開発されている。しかし、歯による身元確認はカルテやレントゲン写真に基づく手作業に頼っており、災害の規模が大きくなるほど作業時間は増え、誤認の危険性も増している。
  全国の歯科医院は現在、6万5000を数え、そこで撮影される歯科エックス線写真は年間8000万枚に上る。わが国の歯科受診率は非常に高いことから、エックス線写真による身元確認システムが自動化されれば、災害現場で身元の確認作業にあたる歯科医の負担軽減と時間短縮ができ、照合精度も高まると小菅さんは考えた。

変形補正し正確に

 1人でコツコツ研究を続けてきたが、昨年から神奈川歯科大の鹿島勇教授、東北大大学院の青木孝文教授の各研究グループの協力を得て、成果は大きく前進した。
  これまで歯のエックス線写真を用いた身元確認では、撮影時に生じる幾何学的は変形(位置ずれ、回転、拡大・縮小、ひずみなど)が原因で、自動的に照合することは難しいとされていた。撮影のたびに歯科医師が装置を配置するため、エックス線の照射角度が異なることや、指でフィルムを押さえ付けることでフィルム自体が変形してしまうためだ。
  開発したシステムは、こうした変形を補正し、本人確認を正確にするために、位相限定相関法を利用した。この方法は、画像と画像の位置を正確に合わせることができる上、どれくらい類似しているかを数値で正確に表すことができる。既に、バイオメトリクス認証(顔、指紋、筆跡などを用いた生体認証)で、その有効性が確認されている。
  小菅さんは開発したシステムの性能評価をするため、歯科治療の前後で撮影されたエックス線写真60人分、120枚を生前・死後と想定して照合する実験を行った。やり方は、治療後の写真を1枚入力し、データベースに格納されているすべての画像60枚と照合し、入力画像に対する候補リストを作成した。同じように1対60の照合を入力画像の枚数分(60回)だけ繰り返した。
  この結果、照合スコアが最も高かったものには、本人画像が87%含まれていた。また、上位3番で識別率が100%になったことから、候補リストの上位3番までに必ず本人の画像が含まれていることが分かった。つまり、システムを利用することで、そのうち5%を照合するだけでよく、実用化されれば確認作業の負担が大幅に軽減されるという。

11月シカゴで発表

 小菅さんはこのシステムについて、4月から5月にかけて開かれた日本法歯科学会、日本歯科放射線学会、日本法医学会でそれぞれ発表した。また、11月には米国のシカゴで開かれる世界最大規模の放射線に関する国際会議RSNAで発表することになっている。
  「まだ実験的な段階であり、これからも性能や処理速度、使い勝手などを改善していきたい」と小菅さんは話す。娘の研究を見守る父親の篠原さんは「地震をはじめ大規模災害がいつ発生するか分からない。その時、開発したシステムは大きな力を発揮すると思う」と言う。
  篠原さんは検視警察医としての功績が認められて今年5月、県総合表彰を受けた。そんな父親の背中を見て育った小菅さんの研究成果に期待が高まっている。

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