歯のエックス線写真で身元確認ソフト開発
日航機事故遺族の声が後押し
東京新聞(2007.8.19)
十二日に発生から二十二年を迎えた一九八五年の日航ジャンボ機墜落事故をきっかけに、高崎市の歯科医師が歯のエックス線写真による独自の身元確認ソフトを開発した。身元不明者の写真を正確に、早く一致させられるのが特長。十一月に米国シカゴで開催される国際会議で発表する。歯科医師は「大事故の際、多くの遺体を確認せざるを得ないご遺族の心痛を少しでも和らげられれば」と念願している。 (菅原洋)
この歯科医師は同市高関町の歯学博士小菅栄子さん(36)。小菅さんは七年ほど前に県内で初めて女性歯科医師として検視警察医に。父の篠原瑞男さん(62)も歯科医師だ。
篠原さんは日航機事故の際、三日目から約一週間、藤岡市の遺体
安置所に通い詰め、数百体の身元確認に取り組んだ。五百二十人が犠牲となった大事故。この父の姿を見て、当時既に歯科医師を志していた中学生の小菅さんは「歯科医師に身元確認という重要な仕事がある」と知らされた。
十年ほど前に歯科大を卒業すると同時に身元確認ソフトの研究を始め、その当時から父親らとともに「御巣鷹の尾根」に命日の慰霊登山を毎年続けている。
そんな二〇〇二年の慰霊登山で、小菅さんにソフトの開発を後押しするある出来事が。小菅さんらに高浜雅己機長=当時(49)=の妻淑子さんが「夫とされる五本だけの歯が本物なのか、(その当時までの)十七年間悩み続けている」と打ち明けたのが始まりだった。
「歯による身元確認の説明責任が果たされていなかった」と衝撃を受けた小菅さん。小菅さんらは後日、淑子さんを高崎市内の歯科医院に招き、歯による身元確認の確実性を約一時間かけて丁寧に説明した。納得した様子の淑子さんの目から涙があふれる。「ソフトの開発を早く実現させなければ」。その時、小菅さんは固く決意をした。
〇六年からは開発に東北大が協力。同大は画像同士の位置を正確に合わせ、類似性を数値にする「位相限定相関法」で進んだ技術を持つ。生体認証にも多く利用されているこの方法を取り入れ、ソフトの開発は大きく前進した。
小菅さんによると、現在の歯による身元確認は主に写真を一枚ずつ手作業で判断している。開発したソフトはまず、障害となる写真のひずみなどを補正。身元不明者の写真と生前の写真が入ったデータベースを照合し、類似性の高い候補を絞り込む。最後に専門家がいくつかの候補の中から精査する。小菅さんがソフトの精度を確認したところ、例えば三千六百回の照合作業では、うち5%を精査するだけで済む結果が得られた。この開発成果は既に今春、国内で開かれた三つの学会で発表している。
小菅さんは今月十二日の慰霊登山でも淑子さんに会い、ソフトの開発を資料を手渡して報告。「御巣鷹の“昇魂之碑”の前でもソフト開発といういい報告ができた」と感慨を込めている。