不明遺体 歯の身元確認システム開発
日航機墜落事故きっかけ
河北新報(夕刊)(2008.8.12)
群馬県高崎市の歯科医師小菅栄子さん(36)が歯のエックス線写真を利用した遺体の身元確認システムを開発した。父も歯科医師で日航ジャンボ機墜落事故の身元確認に携わり、親子で毎年の慰霊登山に参加する。開発に行き詰まったときは事故の遺族から「あなたにしかできない」と励まされたのが力になった。
開発したシステムは身元不明者の歯のエックス線写真と生前撮影された歯のエックス線写真をパソコンで照合、類似度を数値化する仕組み。数値の高い数枚を歯科医師らが目で精査する。
歯のエックス線写真は撮影時にひずみなどが生じるため、自動照合は難しいとされてきた。画像同士の位置を正確に合わせる東北大の技術を取り入れ精度を上げることに成功し、昨年11月に米国の国際会議で発表した。
現在の歯科所見による身元確認は専門家の手作業のため、大規模な災害や事故が起きれば、膨大な時間と人数が必要となる。日航機墜落事故では約3カ月要した。小菅さんは「夏場は遺体が腐敗する。身元確認の迅速化が大切だ」と強調する。
小菅さんの父篠原瑞男さん(62)は日航機墜落事故の身元確認に検視医として従事した。篠原さんの体験談を聞き、日常の検視作業を手伝う中で、小菅さんはソフトの開発を誓った。
システムには東海地震の危険性を抱える静岡県が関心を示し、実用化に向けた取り組みが始まっている。「大規模地震が起きれば、歯科医院も倒壊する」と小菅さん。「生前の写真をデータベース化するなど課題もあるが、身元不明社会にしないために尽力したい」と訴えている。