歯のX線写真自動照合 県歯科医師会実用化後押し
読売新聞(2010.8.11)
日航機事故時身元確認に苦労 亡父の姿開発きっかけに
身元不明の遺体の確認を迅速化するため、生前に撮影された歯のエックス線写真を電子画像でデータベース化し、遺体の歯の画像と自動照合するシステムが、実用化に向けて動き出そうとしている。開発者の一人は群馬県高崎市の歯科医小菅栄子さん(38)。警察歯科医を務めた亡父が25年前の日航機墜落事故で身元確認に奔走した時の苦労がきっかけだった。研究に注目した新潟県歯科医師会が昨秋、警察歯科医会の全国大会でテーマに取り上げ、導入の機運が高まった。
日航機墜落事故の身元確認は、現場で発見された歯のエックス線写真と全国の歯科医などから取り寄せたエックス線写真を、目視で1枚ずつ照らし合わせて行われた。小菅さんの父親の篠原瑞男さんは高崎市内の歯科開業医で、事故では警察歯科医として無数の歯のエックス線写真を見比べた。事故で亡くなった歌手の坂本九さんの歯型の確認もしたという。 今年64歳で急逝したが、生前、小菅さんによく「気の遠くなるような作業が続いたが、少しでも早い身元確認が歯科医が遺族のためにできるせめてものこと」と話していた。小菅さんは父親の背中を追って歯科大で学び、卒業後の1999年から身元確認システムの研究を始めた。
エックス線写真は一枚一枚撮影角度が違ったり、ゆがみがあったりして、自動照合は困難とも言われた。しかし、画像のゆがみなどを自動補正し、類似性の自動検出法を研究する東北大学大学院情報科学研究科の青木孝文教授(45)(情報工学)の協力で課題を解決し、2006年にシステムを完成させた。 大規模災害時に損傷の激しい遺体の身元確認を迅速化できるほか、犯罪捜査や全国で発見される身元不明の遺体の特定にも応用できるという。 研究成果は、米国の学会で高い評価を得たが、日本での関心は低かった。新潟県歯科医師会が昨年11月、警察歯科医会の全国大会のテーマにしたことが転機となった。「作業効率が飛躍的に向上する」と注目され、実用化を目指し、日本歯科医師会が「日本法歯科医学会などとも連携し、IT化を促進したい」と試験運用の準備を進めている。
県歯科医師会は独自に、この研究に関する検討チームを発足させており、「強力にバックアップしたい」とし、日本歯科医師会にも働きかけを続ける方針だ。
小菅さんは「身元確認にITを導入すれば、作業効率がずっと上がるはず。早く身元確認できれば、早く遺族の元に遺体を返すことができる。それも私たちの重要な使命だ」と話している。